秋藤千晶大学院生(CiRA未来生命科学開拓部門)は、ヒトiPS細胞の作製過程における初期化因子MYCLの機能解析を行い、初期化に重要な領域(タンパク質ドメイン注1))を同定しそれらの機能を明らかにしました。
MYCL promotes iPSC-like colony formation via MYC Box 0 and 2 domains.
Chiaki Akifuji, Mio Iwasaki, Yuka Kawahara, Chiho Sakurai, Yu-Shen Cheng, Takahiko Imai, Masato Nakagawa
Scientific reports 11(1) 24254-24254 2021年12月20日(論文へのリンク)
我々はMYCLとc-MYCの間で保存されているタンパク質の機能的ドメイン(MYC Box domainと呼ばれている)のどれが初期化に重要なのか?、また、どれがMYCLとc-MYCの機能的差を生み出しているのか?、について解析しました。
c-Mycを使って樹立したマウスiPS細胞を使いキメラマウスを作製すると、多くの個体で腫瘍形成が認められ死亡することがわかりました。この問題を解決するためにc-Mycに変わる初期化因子を探したところ、同じMyc family遺伝子のMycl (L-Myc)を発見しました。Myclを使って作製したiPS細胞を使ってキメラマウスを作ってもほとんど腫瘍形成は認められませんでした。
ヒトの体細胞を初期化する時、Myc遺伝子を使わなくてもiPS細胞を作ることができますが、非常に効率が悪いことがわかりました(後に質があまりよくないことも分かりました)。また、MYCL (L-MYC)を使うとc-MYCを使った場合より効率よくiPS細胞を作れることがわかりました。このMYCLを使ったiPS細胞作製方法は現在iPS細胞研究財団で配布されている臨床用iPS細胞ストックの製造法として使われています。
参考文献:Promotion of direct reprogramming by transformation-deficient Myc
MYCはアミノ酸配列が高度に保存されたMYC Box (MB) domainを複数(0〜4)持っています。この様なドメインは遺伝子が違っていても同じ様な機能を持っていることが知られています。ドメインの機能としては、他のタンパク質と結合して複合体を形成したり、リン酸化などの修飾を受けたりし、その結果さまざまな機能を発揮します。
そこで我々はMYCLおよびc-MYCのMYC Box domain欠損変異体を作り、それらの初期化能力を検討しました。
MB domain欠損変異体 (ΔMBx) を用いて初期化を行なった結果(出現したiPS細胞様 (iPSC-like) のコロニーの数で判定)、MYCLのMB0, 1および2 domainsが初期化に重要であることが分かりました。c-MYCの場合、MB0または1 domainを欠損した変異体は野生型 (WT)より多くのiPS細胞様コロニーを出現させました。MYCで保存されているMB domainsはMYCLとc-MYCで同じ様に機能していると思っていましたが、今回の結果ではそうとも限らないという面白い結果になりました。
さらに詳細な解析の結果、MYCLのMB2 domainにあるW(トリプトファン)が初期化に重要であることを突き止めました。
今後は、MYCLのMB2 domainの詳細な機能を明らかにしていきたいと考えています。
この論文はオープンアクセスとなっていますので、興味のある方はご一読いただければ幸いです。